今回は、僕が授業を受けたある教授が書いた論文の解説をしていこうと思います。(学部生なので、間違いがあれば指摘をお願いします)。テーマは「人種間の入学後のGPAの推移のと専攻選択の違いについて」です。
1.GPAの推移
引用:Campus Life and Learning Project
この図は、デューク大学の生徒のGPAの各セミスターごとの推移です。1学期のGPAは入学直後の学力をほぼそのまま反映します。この図をみて、2点ほどとても興味深いのがあります。
- 入学直後はアジア人のGPAが高く、黒人のGPAが低い
- 入学時には大きく開いていた差が卒業に近づくにつれ、縮まっている
2.入学後のGPAが表わしているもの
先ほども書いた通り、入学後のGPAは生徒の平均的な学力を表しています。しかし、なぜ差が生まれるのでしょうか。それは、Duke大学がアファーマティブアクションを取っているからです。
アファーマティブアクションとは、マイノリティが置かれている環境や歴史的背景を考慮し、差別を是正するために取られる優遇措置をさす。
もう少し極端に説明すると、黒人の人たちはマイノリティに属し、差別されてきたという経緯があるので、社会進出を促すためにも、入試の点数を割りましして、差別を是正していこうというものです(もちろん賛否はありますが、多くのアメリカにある大学がこの政策を取っています)。
入学後のこのGPAの差は、アファーマティブアクションの恩恵を受けて入学した、黒人の人たちが多くいることを示唆しています。大学に入ってきたはいいものの、最初の授業でつまづいてしまう人が多いのです。
3.なぜGPAの差は縮まっていくのか
入学時には、大きくあった差が卒業時にはかなり縮まっています。普通に考えられるのは、黒人の人たちが努力をして、差を埋めたということでしょう。しかし、この論文では、2つの仮説を立てています。
- Senior(4年生)とFreshman(1年生)の授業では、生徒の成績の分散が異なっている
- Major(専攻)によって成績の基準が違う
一つ目に関しては、先生が意図的に上級クラスでは悪い成績を与えないようにしているのが原因だと考えられます。
二つ目は、日本でも同様のことが考えられますが、専攻が違うと一概にGPAを比べられないのです(例えば、文系学部はGPAが取りやすく、理系学部は取りにくいなど)。
4.仮説の検証
この差が何によってもたらされているかを調べるために、この論文では、クラスにおいての順位を用いています。
ここのセクションは少し数学が出てくるので、面倒くさい方は飛ばしていただいて構いません。使う主な数式はこれになります。Yはiさんがt時点で取ったjというクラスの成績です。δはクラスの難易度の代替として、αは生徒の能力を表すものの代替として使われます
これを基に、回帰分析を行います。ただ、この回帰分析を行う仮定は複雑なので省略します(もし、知りたい方は論文を参照してください。僕も正直完璧には理解できていないです)。
また、その後に入学時の成績などを考慮した、回帰分析を行っています。この回帰分析から、コースの難易度や他の要因をコントロールした、人種間のGPAの差を測ることが出来ます。
またこの論文では、専攻を変える傾向を調べるために、専攻変更を説明変数とした、ロジット回帰分析も行っています。
5.結論
この論文によって、大きく2つのことが分かりました。
- 成績のつけ方が高学年になるにつれ、緩くなる(成績の分散が小さくなる)
- 自然科学系や経済学などに最初いたマイノリティの人たちは、よりGPAが取りやすい人文系に専攻を変える傾向がある
つまり結局GPAの差はなぜ縮まったかというと、マイノリティの人たちによる努力ではなく、この2つによる影響が大きいと示したのです。
また、この論文の大事なところは、人種間のGPAの差の要因を分析するだけでなく、アファーマティブアクションに疑問をもたらしているところにもあると思います。今や、エンジニア系と人文系では給料がかなり違うことは、周知の事実です。
果たして、アファーマティブアクションがしっかりと機能しているかは、検討の余地があるように思います。
今回はこれで終わりです。