今回もある論文の解説をしていこうと思います。今回のテーマは教育と出生率の関係です。今回はこちらの論文です。
“The effect of education on fertility: Evidence from a compulsory schooling reform“ (教育が出生率に与える影響について:ドイツ義務教育改革からのエビデンスに基づく)
1.教育と出生率の関係
ほとんどの先進国では、出生率の低下に頭を抱えています。
そういうわけで、社会科学者は何が出生率低下を招いているのか、出生率を上げる方法はないのかについて研究しているのです。
今回の論文は、教育を受けることがどのようにその人の生涯出生率にかかわってくるかについて調べたものであります。
2.高等教育を受けることによる所得効果と代替効果
所得効果
経済学を学んでいる人であれば、一度は聞いたことがある言葉だと思います。
高等教育(大学・大学院)を修了した人は一般的に、修了していない人に比べて、高賃金であることが分かっています。
今回の所得効果とは、高等教育を受けることにより所得が増え、子供を養う経済力が増すので、出生率は上がるというものです(関係ありませんが、高等教育を受けた人がなぜ高賃金になるか興味ある人はこちらを読んでみても面白いかもしれません)。
留学 第32週目 Topic:大学の教育と賃金について考える
代替効果
この場合の代替効果とは、所得が増えることにより、仕事を辞め、子供を産みそして育てることの機会費用もまた増えるため、出生率の低下につながるというものです。
簡単に言うと、仕事を辞めずにお金を違う物(出産・子育て以外)に費やそうじゃないかという考えです。全ての人がそうすると、出生率は低下するのは明らかです。
3.2つの効果の検証
この論文では、回帰分析を使って検証しています。使っているモデルの特徴は、操作変数と固定効果モデルを組み入れているところです。
yはiさんの出生率です。educはiさんが受けた教育年数。
stateは州の固定効果を測るための変数です。cohortは生まれた年の固定効果を測るための変数です。statetrendは州のトレンドを加味するためのトレンド変数です。
zは家庭環境についてのダミー変数です(結婚状況や都市サイズなど)。reformは義務教育改革の影響を受けているかを表すダミー変数です。
もう少し簡単に説明すると、stateはstate特有の観測不能な不変的状況を全てコントロールしてくれます。statetreandは州レベルにおける出生率の傾向をコントロールしてくれます。
これを基に、2段階最小二乗法により回帰分析を行います。また、操作変数を使っているので、教育年数の内生性問題が解消されます。
4.結論
この論文で分かったことは次のことです。
- 受けた教育年数が長いほど、第一子の出産年齢は高くなる
- 受けた教育年数が長いほど、完結出生児数が減る(夫婦が生んだ最終的な子供の数)
まず一つ目についてです。受けた教育年数が長いほど、第一子の出産年齢が高くなるのは、考えてみれば当たり前ですよね。
学生の間は、学業と出産・子育ての両立をすることはかなり難しいです。つまり、教育年数を伸ばせば伸ばすほど、出産時期が遅くなります。
今回の論文で大事なのは2つ目です。つまり、教育年数を増やすことの代替効果が所得効果を上回るという風に結論付けたことになります。
実はこの発見、先行研究とは反対の結果なのです。先行研究では、教育年数の増加は夫婦が生む最終的な子供の数が増えると結論付けています。
それに対し、この著者はドイツでの子育て費用(機会費用も含む)が高いのが原因ではないかという風にも付け加えています。
個人的なコメント
さて今回の論文から、高等教育が出生率を下げるということが分かりました。それでは、出生率を上げるためには、女性は高等教育を受けてはいけないのでしょうか。
私自身は全くそう思いません。著者の人も書いた通り、この場合の問題点は子育て費用が高いことが問題でもあるからです。つまり、子供を産みやすい環境を作っていくことが大事になってきますね。
今回はこれで終わりです。